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11 趣味と技能

 戦争初日。午前10時10分。
 千岡湊の動向。
++++++++++++++++++

 入ってきたのは男子生徒だった。
 スキンヘッドにだぼだぼなシャツとズボン、そしてつりあがった目も合わせて、『不良』の二文字を体言したような人物である。
「おいおい、『戦争』はじまってすぐオレに会っちまうなんて、ツイてねーなぁ」
 その生徒はニヤニヤ笑って、片手に持った武器を湊に向けた。
 バチバチ、と音をたてるそれは黒光りするスタンガン。湊は知りもしないが、これは普通の護身のための物ではなく、『戦争』のために用意された殺傷能力の十分にある「武器」としてのスタンガンだ。
 対する湊は鉄パイプと……使いようもない定規のみ。チャイムが鳴ってからまだ10分もたっていないというのに、いきなりのピンチである。
 湊は黙って、鉄パイプを竹刀を持つように構えた。男子生徒はそのまま笑いながら言葉を続ける。
「ヒトゴロシなんて趣味じゃねーけど、オレも生き残りたいんで」
 お前、ここで死んでもらうぜ。
 と、不良の男子はそう言葉を続けて、一気に彼女にスタンガンを押し当て、湊は哀れにも感電死…………となるはずだった。
 少なくとも男子生徒はそうするつもりだったし、そうなると思っていた。

 ――――後頭部をいきなり殴られ、気絶するまでは。

「お……あぁ……?」
 台詞の続きを言うどころか、その一瞬に何が起こったのかもわからないまま、不良男子は気絶し、固いコンクリの床にうつ伏せに倒れこんだ。
 大柄な体のせいもあって、ドスンッ、と結構大きな音を立て、ついでに周りに立てかけていた古いバットなんかも振動で地面に倒れた。
「むぅ……予想外に大きな音が立ってしまったな。やはり鳩尾を狙うべきだったか……?」
 そして倒れた男子生徒の後ろに立つ湊は、特に何の感慨もなさげにそう呟いた。
 ……この一瞬に何が起こったか。言うまでもない。
 湊は男子生徒の背後に回り、鉄パイプを思い切り相手の後頭部に振り下ろしたのだ。
 ただ男子生徒がそのことに気づかなかった、否、気づけなかっただけのことである。
「……うん。この鉄パイプも真剣ほどではないがそこそこ役に立つな。実戦は初めてだが、ここまで出来ればまぁいいとしよう。 さて、さっきの物音で誰かが来てもマズい。武器も手に入れたし、さっさと別の場所に移動するか」
 そう言って、開きっぱなしだった部室のドアをくぐって外へ走り出る。
 気絶しただけの男子生徒は幸運なことに、いきなりの戦線離脱とはならなかったが……。
 この攻防が、千岡湊の17年の修行の成果を表していた。


 彼女にヒトゴロシの趣味はなかったが、ヒトゴロシの技能は十分すぎるほどあったのである。



++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
 友達発案のスキンヘッド君にはかませ犬になってもらいました。ゴメンなさい。
 ……ところでこれって、戦闘シーンって呼べるのか?

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